第2章 ゼロの物語
現在私達が使っている数字はインドに起源があります。ゼロという画期的な数も、そこで生まれました。
ゼロという数の起源には、インドの宗教的側面と同時に、インドの哲学が反映されていると思われます。インドでゼロを意味する言葉は、サンスクリット語のシューニアです。シューニアとは文字通りには何も無いということ、「空(くう)」や「無」を表しています。涅槃の境地を目指す修行において、最初に必要とされれるのが、全ての想いを絶ち切って心を空にすることです。
「空」を象徴的に表すものが、ビンディー、すなわち「点」です。インドの女性達が額(ひたい)に点を付けているのを見たことがあるでしょう。今でもそれは、化粧の一部になっています。このビンディー、すなわち「点」は、「穴」へと変化しました。そして、この「穴」は、一種の世界観を表すものとなります。例えばその一つが、人間は全て、この「穴」の中にいるという考えです。「救い」とは、「穴」から抜け出ることだと考えられました。
インドの宗教と哲学から誕生したゼロ。
でもゼロが無くては、1−1さえ計算できません。ゼロは数の世界に全く新しい道を開きました。
現在私達が使っている記数法の起源が、インドにあることは広く認められています。その元は、紀元前2〜3世紀にさかのぼることができます。数そのものは、昔から日常生活の一部であり、日常的思考の一部でした。そして人々は、信仰や娯楽を通じて数学の問題に触れることができました。現在学校で教えているような数学を、当時の人々は歌や遊びの中で、知らず知らずに学んでいたのです。
現代の数学と決定的に違うのは、当時の数学の問題が、詩や韻文の形で表されていたことです。個々の数には特定の言葉が当てはめられていました。詩ならば、誰もが簡単に覚えたり、暗誦することができます。これは単に数学を身近にしたということだけではありません。人々は簡単な詩の言葉を使って、自ら数学的な問題を表現することまで、できるようになったのです。
こうした数を含んだ詩の起源は11世紀にまでさかのぼります。ヨーロッパの数学は、まだ揺りかごの時期にありました。インドの数の詩には、近代数学のルーツが見て取れます。
インドで生まれた数学がアラビアを経由してヨーロッパに伝わったのは12世紀ごろのことです。その記数法は、その後200年ほどの間にローマ数字などに代わって広く使われるようになりました。
整数だけなら数の世界はどれほどスッキリしていることでしょう。しかし、小学校で出会う分数があり、さらに分数では表せない無理数があります。数学はこうしたやっかいな複雑さの背後に美を見出すことで発展してきました。
更新日:'99.04.30 M.Tanaka