第1章 数を認識する脳
数に強い人は、音楽や絵に才能の違いがあるのと同じように、才能があるのでしょうか。
数学は素質で、生まれつき特別できる人がいるのでしょうか。
数学が、すごく得意な人は脳が、ちょっと違っているのでしょうか。
普段の生活で当たり前のように数を使っていても、計算や数学が苦手という人は少なくありません。数に対する得意、不得意を分ける原因はどこにあるのでしょうか。
数に対する能力には素質が大きく関係しているという学者もいます。というのは、これは極端な例ですが、スッポリと数に関する能力だけが抜け落ちているという場合があるのです。
神経心理学の医師のところには、いろいろな問題をかかえた患者が診察を受けに来ます。その問題の一つが、数を認識できないというものです。この場合は日常生活にも支障をきたします。数を認識できない人は、お店で買い物もできません。値段やおつりを計算できず、自分の家の住所や電話番号が覚えられない、あるいはバスの番号も読めないという極端な場合まであるのです。
そうした患者にとっては、毎日が苦労の連続でしょう。
数は彼にとってなじみの無い外国語同然です。数字の大小が分からず、簡単な計算もできません。そのため彼の日常は恐ろしい障害だらけです。
例えば、イギリス人のクレイグ・ウォード(Crag Ward)。彼は、れっきとした心理学者ですが、
「買い物に行くのは悪夢そのものです。まず、今だに、よくなじめない、お金を持っていかなければなりません。品物には必ず値段がありますから、他のものと比べて、それがいくらなのかを考えます。例えば、(左の図のように)値札に書いてある値段を見て、2と6と5というのは何を意味するのか必死で考えるわけです。そして、これがようやく2ポンドだというのが分かります。次には、そこにある点の意味を考えないといけません。」
数が認識できない患者には、いずれの場合も頭頂葉(とうちょうよう)と呼ばれる脳の部分に障害があるといいます。特に脳の左側の頭頂葉です。脳の右側の頭頂葉は全く別の機能を持っています。数の認識にかかわる部分は、言語をつかさどる脳の部分とは、別な場所にあります。そしてまた、思考や推理をつかさどると思われる、前にある脳の部分からも独立しています。
しかし、もっと驚くべきことがあります。それは、脳の中で数にかかわる領域が、更に小さな部分に分かれているということです。例えば、掛け算の九九を覚える部分や、貸し借りの計算を行う部分などというふうに、細かく分かれているのです。実際、数にかかわる、そうした一部分だけが、どうしてもできないという患者もいます。
生後五ヶ月の赤ちゃんは、言葉をしゃべる前に数の違いが分かるといいます。子供には数の感覚が備わっていて、すでに足し算や掛け算の九九が頭に入っているのでしょうか。
更新日:'99.04.30 M.Tanaka